内田百閒、動物と言えば名作「ノラや」ですが,あえて童話が9編納められた短編集(9編の内7編に動物が登場します。)「王様の背中」をとりあげます。
内田百閒の作品には道を歩いていたら、いきなり落とし穴に落とされたような「急さ」「意外さ」があります。今まで熱心に書いていた話を幼児が遊んでいたオモチャに突如飽きてオモチャを放り投げるように止めてしまう。
「なんでそこに落穴掘るかなぁ?」と面白くもあり、実は落とし穴は底なしじゃないのだろうかという気がして怖くもあります。本当に掴み所の無い人です。平気で矛盾するし。
本書では「桃太郎」が抜けて面白いですね。こちらに対して何のメッセージも発信してこない。本当に何にも。
ふんだんに使われた版画家谷中安規の挿絵(版画)もイイですね。もともと童話と版画はいかにも相性がよさそうですが、百閒の持つおかしみと挿絵のイメージがピッタリです。 百閒と谷中の取り合わせは非常にゴージャスな気分にさせてくれます。
ゴージャズといってもフランス料理とワインというよりは和菓子に日本茶といった具合に渋い目ですが。
でも一番面白のは本編より巻頭だったりします。こんな所も百閒らしいですね。
(前略)この本のお話には、教訓はなんにも含まれて居りませんから、皆さん安心して読んで下さい。
どのお話にも、ただ読んで頂いた通りに受け取ってくださればよろしいのです。
それがまた文章の正しい読み方なのです。
王様の背中 (福武文庫) 内田 百けん 福武書店 1994-09 by G-Tools |