火事になったら、一枚のレンブラントより一ぴきのねこをすくおう
そしてその後で、そのねこを放してやろう

アルベルト・ジャコメッティ

 

上の台詞は、今回取り上げる詩人長田弘のエッセイ「ねこに未来はない」の巻頭に載っていたものです。素敵で洒落ているので引用してみました。
絵本が続きましたので、今回は気分を変えてエッセイです。

 

インパクトのあるタイトルは「猫は脳の構造上、未来を考える能力が無い」と「外に自由に出歩く飼い猫は、事故や行方不明で飼い主の元からいずれ姿を消す」の二つの意味が込められています。
いいタイトルですね。

 

〔内容〕 全日本反猫同盟を作ろうかと考えたこともある猫嫌いな筆者がねこ好きな女性と結婚。そして猫を飼い始め、やがてねこの本を読みながら紅茶を飲むのが、唯一の楽しみになる程のねこ好きになるまでを描くエッセイ。
おまけで英国の作家アラン・シリトーの絵本「ママレード・ジムの冒険」の筆者の手による翻訳版もついています。

 

この作品は、非常に柔らかい文体で書かれています。読みやすい反面、柔らかすぎて緩くなりそうな所ですが、猫はいずれ姿を消してしまう諦念とそれを承知の上で猫を飼おうとする意志の強さがこのエッセイを引き締めて読み応えのある物にしています。
また、昔の村上春樹とどことなく似ている詩人らしい?表現も特徴的です。
挿絵は長新太。こちらは柔らかさが絶妙。肩の力がフッと抜けて微笑んでしまいます。

 

話はそれますが「怒れる若者」ことアラン・シリトーが猫の絵本を書いているとは、知りませんでした。
ピカレスクロマンなイメージとのギャップには不意を突かれて笑ってしまいました。
でも考えてみるとワンちゃんよりはネコちゃんっぽい作品を書いていますね。「土曜日の夜、日曜日の朝」とか。
中学生の頃アラン・シリトーの作品を読んで、あのパンキッシュな姿勢に痺れたのですが、今も若者に読まれているのでしょうか?

 

猫に未来がないのなら人間や他の動物にだって未来はやはりないのです。家族、恋人、友人、ペットと必ず別れが訪れます。逆説的ですが別れの日がおもいっきり悲しくなるように今を楽しく過ごすしかないのでしょうね。

 

4041409020 ねこに未来はない (角川文庫 緑 409-2)
長田 弘
角川グループパブリッシング 1975-10by G-Tools