今回は厨房の嫌われ者ネズミがシェフとして活躍する映画「レミーのおいしいレストラン」を取り上げます。

 
[あらすじ] 天才的な舌を持ちながら、残飯を漁る生活に不満をもっていたネズミのレミーが頼りない見習いシェフのリングニと組んで一流シェフを目指す。

 

他のピクサー作品同様、技術の高い映像と肩の凝らないストーリーで楽しませてくれる佳作です。
アニメに必要以上のリアルさを求めない私にしてみれば、エンドクレジットのタッチの違うアニメーションが本編よりレトロで好み。でも、あのタッチで本編を撮ったら地味になってしまうでしょうけど。

 

厨房の細かく描写するシーンやカーチェイスシーンは高い技術力を見せ付けられている気がして、嫌味に感じないことも無いのですが、ずぶ濡れになったリングイニの痩せた体にピッタとTシャツを張りつけさせて、リングイニの頼りなさを表現する辺りはさすが。
具象を突き詰めてキャラクターの内面を描ききっているのを見せられると文句も出なくなります。

 

本作品見た後に「ハウルの動く城」をみたのですが、完成度の高さがあまりにも違うので驚きました。レミーは作品を観客の手の届く位置におき、その魅力をわかりやすく伝える事に重点が置かれているのに対し、ハウルを国家という大きな勢力が好ましくない事態(ハウルの場合は戦争)を一個人に強いてきた時にどう抗するかという、感情移入が難しいテーマ。
大きいテーマに取り組んでいて、その壮大な心意気や良しとしてあげたいのですが、広げた風呂敷を畳めずに観客を置き去りにしたラストで、唖然。
もう少しピクサー社を見習えと言いたくなりました。

 

さて、本作品のハイライトはなんと言っても敵役の評論家グスコーが出された料理を作ったのがネズミと知り、「誰が作ろうと美味しいものは美味しい。新しく出現した才能が世にでるに助けを必要とするなら手を貸すのが評論家の役目だ。」(という内容。うろ覚えですけど)と自らの評論家生命を賭けてレミーを褒め称えたシーン。
評論家生命を賭ける。大袈裟ではない。だってネズミの作った料理を美味しいというのだから。
評論は実際作るより楽とグスコーは語るが、上の独白は、評論することに命を捧げている人間だけが持ち得る美しい矜持の表明。
どんなバックグラウンドも入り込む余地はない。只、作品をそこに素晴らしい作品さえあれば。
良いものは良いと言うことがどんなに難しいか。立場の有る人間なら、なおさらでしょう。

 

本作品には「誰でも天才料理人」という決めゼリフが出てきます。レミーはこのセリフを信じ、精進して料理人として成功を収めます。
しかし、本作品で料理の味を最終的に決めることを許されているのはレミーのみ、リングイネも料理人であるその彼女にも決定権は与えられていません。
味を決めてよいのは天才レミーのみで他の者は補佐しか許されないという実力主義が支配するのが厨房の掟。
誰でも天才料理人ではなく、誰もが何かしらの役割があるというのがこの作品の言い分。
つまり、グスコーには評論の才能、リングイ二は料理人ではなく、ウェーターとしての才能があったと。
しかし、直接調理に係わっていない彼らも美味しい料理を提供することに関しては、大いに係わっている訳で、この一筋縄ではいかないヒネッた味付けも魅力的です。

 

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