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2009.03.04
ブログ評論家の矜持ーレミーのおいしいレストラン
今回は厨房の嫌われ者ネズミがシェフとして活躍する映画「レミーのおいしいレストラン」を取り上げます。 [あらすじ] 天才的な舌を持ちながら、残飯を漁る生活に不満をもっていたネズミのレミーが頼りない見習いシェフのリングニと組んで一流シェフを目指す。 他のピクサー作品同様、技術の高い映像と肩の凝らないストーリーで楽しませてくれる佳作です。 アニメに必要以上のリアルさを求めない私にしてみれば、エンドクレジットのタッチの違うアニメーションが本編よりレトロで好み。でも、あのタッチで本編を撮ったら地味になってしまうでしょうけど。 厨房の細かく描写するシーンやカーチェイスシーンは高い技術力を見せ付けられている気がして、嫌味に感じないことも無いのですが、ずぶ濡れになったリングイニの痩せた体にピッタとTシャツを張りつけさせて、リングイニの頼りなさを表現する辺りはさすが。 具象を突き詰めてキャラクターの内面を描ききっているのを見せられると文句も出なくなります。 本作品見た後に「ハウルの動く城」をみたのですが、完成度の高さがあまりにも違うので驚きました。レミーは作品を観客の手の届く位置におき、その魅力をわかりやすく伝える事に重点が置かれているのに対し、ハウルを国家という大きな勢力が好ましくない事態(ハウルの場合は戦争)を一個人に強いてきた時にどう抗するかという、感情移入が難しいテーマ。 大きいテーマに取り組んでいて、その壮大な心意気や良しとしてあげたいのですが、広げた風呂敷を畳めずに観客を置き去りにしたラストで、唖然。 もう少しピクサー社を見習えと言いたくなりました。 さて、本作品のハイライトはなんと言っても敵役の評論家グスコーが出された料理を作ったのがネズミと知り、「誰が作ろうと美味しいものは美味しい。新しく出現した才能が世にでるに助けを必要とするなら手を貸すのが評論家の役目だ。」(という内容。うろ覚えですけど)と自らの評論家生命を賭けてレミーを褒め称えたシーン。 評論家生命を賭ける。大袈裟ではない。だってネズミの作った料理を美味しいというのだから。 評論は実際作るより楽とグスコーは語るが、上の独白は、評論することに命を捧げている人間だけが持ち得る美しい矜持の表明。 どんなバックグラウンドも入り込む余地はない。只、作品をそこに素晴らしい作品さえあれば。 良いものは良いと言うことがどんなに難しいか。立場の有る人間なら、なおさらでしょう。 本作品には「誰でも天才料理人」という決めゼリフが出てきます。レミーはこのセリフを信じ、精進して料理人として成功を収めます。 しかし、本作品で料理の味を最終的に決めることを許されているのはレミーのみ、リングイネも料理人であるその彼女にも決定権は与えられていません。 味を決めてよいのは天才レミーのみで他の者は補佐しか許されないという実力主義が支配するのが厨房の掟。 誰でも天才料理人ではなく、誰もが何かしらの役割があるというのがこの作品の言い分。 つまり、グスコーには評論の才能、リングイ二は料理人ではなく、ウェーターとしての才能があったと。 しかし、直接調理に係わっていない彼らも美味しい料理を提供することに関しては、大いに係わっている訳で、この一筋縄ではいかないヒネッた味付けも魅力的です。レミーのおいしいレストラン [DVD] ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 2011-07-06by G-Tools -
2008.10.14
ブログ狸 よいやっさ! 自然保護 大変だぁ―「平成狸合戦ぽんぽこ」
昨日、お散歩をしているとワンちゃんが急に立ち止まりました。 「ん?」視線の先を追うと狸でした。ワンちゃんと狸と私が見つめあうこと5秒。サッと狸が逃げていきました。 ここは杉並区。練馬区のお客様の庭に狸が出た話や我が家の周りで狸を目撃したことがあります。 帰宅後、「都内の狸」について興味が湧いてきたのでネットで検索してみると、「平成天皇が皇居内に生息する狸の調査を論文にまとめて発表」なんて面白いニュースもありました。なんでも自ら狸のフンを採取、分析したそうで。なんと恐れ多い。 都内に生息する狸を扱った映画といえば「平成狸合戦ぽんぽこ」。 ジブリ作品の中ではとりわけ人気が低いようです。私は結構好きですけどね。よいやっさ!。まあ、見たのがかなり前で、ざっくりとした印象しか持っていないので擁護も出来ませんし、忘れてしまったのでここでは内容にも触れませんが。(我ながらすごくいい加減。) 昨日の狸が映画を連想させてふと「あーそう言えば、ぽんぽんこ見たなあ。」と思い出した次第です。 ぽんぽこのラストはゴルフ場でしたが、最近、ゴルフが流行ってますね。一方、エコもブーム。10年以上前だったらゴルフと言えば自然破壊の代名詞でゴルフとエコの二つが並び立つなんてあり得なかったのですが、今は「緑豊かな環境でプレー」とクリーンなイメージがありそうです。 ここで皮肉を書きたい訳ではなくて、かように価値観は変化していくのだなと面白く感じました。 環境問題って難しいですよね。そもそも快適な暮らしが出来るのは、自然を切り開いていったからで、快適な暮らしと自然保護を両立させようとすると、どうしても矛盾が出てきます。自然保護という概念さえ人間の都合。 その矛盾を解決する手立ては私には思いつかないですが、かと言って「人間なんて矛盾の塊さ」と冷笑的な態度をとるも嫌ですし。 となると矛盾を意識しつつ、少しでも良い方向に進めるように考え続けるしかないのでしょうね。 んー大変だぁ。平成狸合戦ぽんぽこ [DVD]
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 2002-12-18
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2008.10.04
ブログモノ>思い出じゃなくて、モノ=思い出―「僕の大事なコレクション」
今回、とりあげるのは部屋中をコレクションで一杯にして寝る場所が無くなったり、家族の理解を得られず肩身の狭い思いしているコレクター達を強烈に援護射撃する映画「僕の大事なコレクション」です。モチロン、ワンちゃんも登場します。その名もサミーディヴスJrJr。 Candy Man~♪ コレクションとは無機質なモノを集める行為ではありません。コレクターはそのモノが辿って来た歴史、込められた想いや思い出を集めているのです。コレクションが如何にロマンチックであるかをこの映画は教えてくれます。 あらすじ アメリカ在住のユダヤ系アメリカ人の主人公(イライジャ・ウッド)は家族にまつわるアイテムを集める変なコレクター。兄の使用済みコンドームとか。祖母の入れ歯とか。 そんな主人公が祖父の生まれ育ったウクライナにルーツ探しへと。旅のお供は現地ガイドのアメリカ好きの若者(ユージン・ハッツ)にユダヤ人嫌いの祖父。祖父は車の運転が出来る盲人。つまり目が見えないのは嘘。それと人に吠えかかる盲導犬のワンちゃん。 一見するとよくある自分探しのロードムービー。前半はコメディタッチも途中から主人公と若者のルーツ、祖父の過去が絡み合いシリアスな展開へと話は進みます。 今作がデビュー作の監督は手際よくストーリーのトーンを変えて行きます。イライジャ・ウッドのルーツ探しがいつの間にやらユージンのルーツへと及ぶ様はお見事。 またキャステンィグも絶妙で、ナードな役柄が嵌っているイライジャも良かったのですが、アメリカ好きの若者を演じたユージンはイライジャを喰う勢いでした。この人、本職はミージシャンだそうですが、生意気だけど心優しく、間抜けが故に時に鋭い発言をする若者を好演していました。そうそう劇中に流れるジプシー風音楽も軽快で特に前半の雰囲気とマッチしていました。 何より印象に残ったのはひまわり畑のシーン。緩やかな風に揺れるひまわり畑の黄色が鮮やかで鮮やかで。 でも鮮やかなのにどこかさびしいのは、トラキムブロドという名の村で起きた惨劇によって流れた血と亡くなった村人の想いによって作られた黄色だからなのでしょうね。 村人達の遺品がひまわりの下に(実際には埋まっていないのですが)埋まっているかのようなイメージを受けました。 前半の明るいテンションをもっと維持してくれても・・・と思ったら、DVDの未公開シーンにはハイテンションなシーンが沢山入っていました。サミーディヴスJrJrも本編よりも活躍していました。サミーディヴスJrJrは凶暴な面を持ったキャラクターですが、実際のワンちゃんはとてもお利口で頑張って演技しているのが伝わって来ました。 一つ一つの未公開シーンは面白いのですが、全部採用すると長くなるし、作品の雰囲気も変わってしまいそうです。この辺りの塩梅は難しいのでしょうね。僕の大事なコレクション 特別版 [DVD]
リーブ・シュライバー
ワーナー・ホーム・ビデオ 2006-11-03
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2008.08.21
ブログ押井犬はバセットハウンド好き―「イノセンス」
少し前の話になりますが、朝の情報番組スッキリ!!にて放映されていた*「スッキリ・クロラ」に出てくる押井監督の顔を模した、ワンちゃんを押井犬と呼んで勝手に喜んでいました。かわいくないとか。本人に似ているけど髪は多いとか。悪口では有りませんよ。私は押井犬のことをとても気に入っています。 そんな訳で今まで押井作品に触れたことがなかったので、いい機会だと映画「イノセンス」を見ました。 *映画「スカイ・クロラ」の登場人物とスッキリ!!の出演者が登場する1分間のアニメーション 現在(8月21日)も第二日本テレビで閲覧可能(http://www.dai2ntv.jp/p/z/131z/) あくまで私の主観ですが、力の入った映像でしたが圧倒まではされず、脳を機械化して人々が膨大な情報を共有し、体の一部を機械化することによって自分と他人の区別がつかなくなる 「この体、この脳は誰のもの?自分と他人との違いってなに?」という問題定義は興味深いし、自分と他人との区別がつきにいく状況下において自我を保つ為にイノセンスなものを求める行為(主人公バトーにとってはバセットハウンドと手が届かない遠くにいってしまった、もしくは気づかない程近くにいる少佐)こそが自分らしさだという帰結もうなずけるのですが、どこか物語にひきつけられない。 退屈とまでは行かないにしても引き込まれない。後で見たパトレーバー2の方が物語としてのパワーを感じました。 コアなファンからすると読み込みが足りないのかもしれませんが、個人的な感想ですのご容赦を。 ハードボイルドで謎めいたセリフやアクションシーンはハリウッド映画を思わせるので、これらにオリエンタル風味を加えているのが海外受けする秘訣でしょうか。 でも素早い展開のアクションシーンや壮大な都市を描くシーンよりも私の目を引いた映像はバトーの飼うバセットハウンドの食事シーンです。 食事を与えると、早速食器に顔を突っ込むのですが長い耳まで食器の中にするとバトーが優しく耳を取り出してあげます。クールでタフなバトーが心優しい人間であることが一瞬で分かるシーンです。 一瞬にして多くの情報を伝えるのが作り手の技であり、それを見抜くのが受け手の醍醐味ではないでしょうか? このシーンには、食いつきのいいワンちゃんを飼ったことのある方ならお馴染みの勢い余って食器を押しながら食べ続けるというオマケまでついてきます。監督はバセットハウンドを飼っているそうですがバトーの優しさ共に監督のワンちゃんに対する愛情と観察の深さが分かるシーンですね。 イノセンスを見て、監督本人に興味が湧いてきたので他の作品も機会があれば見てみようかなと思っています。イノセンス スタンダード版 [DVD] ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 2004-09-15by G-Tools -
2008.07.22
ブログたとえ現実逃避だとしても―「子猫をお願い」
作品に触れる年齢や環境によって感想を変わってくるものですが、いつ見ても青春時代を描く作品には、感情を揺さぶられます。韓国映画「子猫をお願い」もそんな作品でした。 [あらすじ]高校時代からの仲良し5人組。高校を卒業してからは別々の進路を歩む中で友情関係にひびが。それぞれの思いを胸に社会へ出て行こうとする女の子達の青春群像劇。 画面はモヤがかかっているようで、たんたんとぼんやりとした印象を受けます。BGMもそんな印象。 この映画全体から流れる地に足がついてないような空気感が5人組の未来に対する漠然とした不安な心境をよく表していました。 女の子達の平凡な日常を追っていくだけの話ですが、あきさせないのは女の子達のキャスティングの良さ。 特に主演のペ・ドゥナは「不満は有るけどその不満が何かわからないし、具体的にしたいことはないけど自由ではいたい。」 そんな、ある意味身勝手な気持ちをショートカットに痩せぎすの体全身で表現していました。それぞれのキャラクターの役割分担がはっきりとしていたので演じやすかったのかもしれません。 女の子達の内面をあっさりと描写していながら書き漏らしはしない監督の上手さも飽きがこない要因。若い女性監督なので心情的に登場人物と似た部分もあるのかも。実際、監督は周りの友人達をみてこの映画を撮ろうと思いたったそうです。 当時は斬新だったかもしれない携帯電話を多用した表現が今となっては古臭いのはご愛嬌でしょう。ケイタイは子猫よりも大活躍でした。 ラストで主人公は友達一人を連れて海外へと旅立ちます。目的もどこへ行くのかもはっきりとしないまま。はっきりしないのが如何にもこの映画らしいですね。ただの海外旅行に終わって時間とお金を浪費して韓国に帰ってきてしまいそうな気もします。 仮に海外に行くことが現実逃避に終わったとしても彼女達が悩み、苦しんで状況を変える為に一歩を踏み出したのは事実です。 真っ暗な何処かへ踏み下ろした一歩が前に進んだのか、ただの足踏みに終わったのか、それとも後ろへ下がったのかは誰にもわからないのだから。子猫をお願い [DVD] チョン・ジェウン ポニーキャニオン 2005-01-19by G-Tools