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2008.09.29
ブログこどもたちの視線の先には・・・・―「くまさんくまさんなにみてるの?」
有名人にアスリート、芸術家から凶悪事件の犯人までその人物像を探ろうと試みると、大抵は幼年期の環境や親子関係がキーになります。その中でも特に母と子の関係が取り上げられることが多い印象を受けます。 自分にあてはめてみても、子供の時分は気づきませんでしたが、親や育った環境から良くも悪くも影響を受けていることが今になってよくわかります。 どこで読んだか忘れましたが、神風特攻隊員が突撃する際に叫ぶ名は妻、恋人や父親ではなく母親だそうです。 やはり母子間のつながりは、特別なのでしょう。(書いてて気づきましたが、特攻隊員は若い隊員ばかりでしょうから、妻帯者が少なかったのでは?) 今回、取り上げるのは母が子に読み聞かせるべき絵本と言うよりも、絵本自体がすでに母が読み聞かせる設定になっている絵本「くまさんくまさんなにみてるの?」です。 あらすじは、「ちゃいろいくまさんなに みてるの?」「あかい とりをみているの。」と同じ質問を動物達へ順々に聞き続け最終的には「おあかさん なにているの。」「だいすきなこどもたちをみてるのよ」「みんなは(注 こどもに声を掛けています) なにをみているの?」「おかあさんをみているの。」で終わります。 と、まあ、おとおさんではダメなのです。やはりおかあさんでないと。 気になるのは実際読み聞かせた時に読んでいて母親と子は最後の下りで照れたりしなのでしょうか?自分だったら照れてしまいそうですが。親子だったら照れないか、照れないですよね。 絵本自体の感想をサラッと書きますと、ただ動物達をシンプルに描いてるだけなのですが、いやだからこそエリック・カールの良さが出ますね。線と色の濃淡でそれぞれを動物を上手く書き分けています。表紙のくまさんの顔と体のバランスを一つ見ても素晴らしい。 私はあおい うま、むらさきいろの ねこ、しろい いぬが気に入っていますが、中でも聡明な目をしたむらさきいろのねこが一番気にいってます。 何処で読んだか、またまた忘れましたが、裏表紙のバーコードは、装丁上美しくないという記述を読んだことがあります。 それまで全く意識をしてなかったのですが、なるほどと納得したものです。 「くまさんくまさんなにみてるの?」の裏表紙は表紙のくまさんの後姿を裏表紙一杯に使って描いています。 つまりバーコードを入れる余白が無いのです。担当者の方は何処にバーコードを入れるか悩んだのか?むしろ悩まなかったのか?くまさんのおしり上部のど真ん中にスタンプを押すかのようにポンとバーコードが入ってます。 確かに美しくないし、バーコードが作品を損なってますね。まあ、見ようによっては、面白いのでコレはコレで有りですけど。くまさん くまさん なに みてるの? (エリック・カールの絵本)
ビル=マーチン エリック=カール
偕成社 1984-11
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2008.09.12
ブログ誤読する権利―「みどりの目」
今回取り上げる絵本「みどりの目」は肩の凝らない良作で、私も気にいってます。 優しい色合いで描かれる自然の中を好奇心旺盛な子猫が無邪気に走り回る様子は本当に微笑ましい。文章は簡潔ですが子猫の素直な気性を巧みに表現しています。 簡潔な文章も程よく雑な絵もいいのですが、何より特筆すべきは、単純そうでいて捻りの効いたストーリーです。 話の冒頭で子猫は箱に入れられたまま置き去りにされるのですが、「あおい そらが、ぼくのいえの てんじょうだった てわけ」とノビノビと生活し続けます。 そしていつの間にやら拾われて話は終わります。 子猫は身の回りに重大なことが起きているのに、楽天的な前向きさと環境の変化に捕らわれない気高さで捨てられた事に気づきもしないのですが、じつは悲劇的な状況に陥っている。この辺りが微笑ましいやら切ないやら。でもいつの間にやら拾われる幸運さ。 子猫が世界を愛し、世界に愛されているのが、気づいてないけど悲劇→気づかないうちに解決という一連のエピソードからて伝わってきて、「なんと気高く幸福なネコちゃんなんだ!」と楽しくも暖かい気分になれるのです。 ところがここで問題がありまして。子猫が置き去りにされたのか、ただ飼い主によって外に出されただけなのかはっきりと作中で触れられてないのです。 私ははじめて読んだ時に前者と解釈したのですが、他の方のブログやサイトを覗くと捨てられたと解釈している人は少数派なので段々と自信が無くなってきました。 でも胸を張って捨てられたと解釈することに決めました。何故かって?だってそっちの方が面白いから。 それに仮に間違いだとしても、読み手は「作品を誤読する権利」が持っているのですから。みどりの目
エイブ・バーンバウム ほしかわ なつよ
童話館出版 2002-05
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2008.08.27
ブログマスターピース―「はらぺこあおむし」
どんなジャンルにも受け手の性別、年齢、嗜好そして時代をを超えて訴えかける作品が存在します。そんな作品をマスターピースと呼ぶなら、絵本「はらぺこあおむし」は間違いなくマスターピースでしょう。 一枚の葉っぱでも部分によって色を書き分ける色使いの多彩さ、鮮やかさ。コラージュによって生み出される立体感。おなかを壊したのあおむし情けない顔、無関心さまで感じさせる明るい太陽、やさしい白い月。単純にして飽きのこないストーリー。 「はらぺこあおむし」の魅力は沢山の人に語られてるのでわざわざ下手な文章で再度述べなくてもいいのですが(動物じゃなくて昆虫だし)7月24日付けの朝日新聞のこんな記事↓が載っていたので。以下抜粋。 何度も手術を受けた心臓病の女の子がいた。むしが次々に果物をかじって、あなをあけていく 絵本「はらぺこあおむし」をみて、その子はいった。「食べたあとが腐らないのはヘンだ」村中のもっている初版では、虫の食べてあとは色が変わっていた。米国の著者エリック・カール(79)に理由を問い合わせた。「わかりやすさを求めて改版のさい、シンプルにした」と返事があった。 日本では88年に改訂版が出ているそうで、違いが知りたくて書店で改訂版をチェックしました。 手元にある改訂前版と比べてみると蝶の目が違ったりと細かく変えているようです。 素人目にはじっくりと見ないとわからないような、変更を行うこだわりが名作を生み出すのでしょうね。はらぺこあおむし
エリック=カール もり ひさし
偕成社 1989-02
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2008.06.23
ブログ子供はダマされない―「ノラネコの研究」
小学中級むきと絵本「ノラネコの研究」の裏表紙には書かれていますがトンでもない。小学生向きなんて。大人が読んでも十分どころか十二分に楽しめる絵本です。 子供騙しなんて言いますけど、子供騙しには子供も騙されません。大人が読んで楽しい絵本じゃなければ子供も楽しめないと思います。 〔内容〕 ネコ科動物の生態を研究している筆者がナオスケというノラネコの一日の過ごし方を午前10時~午前6時までじっくりと観察。 とにかく面白いこの絵本。何故そんなに面白いか?それは筆者が本気だから。ネコ科動物の生態の研究者が本気で何の変哲もないノラネコの研究をしているからなのです。 その本気度は町中のノラネコの様々な特徴を書きつけたネコカード作りから始まり(その数、百枚以上!)、ノラネコの観察をする場合は丸一日をかけてじっくりと。ノラネコのナオスケが寝てしまえば筆者もジッと待つ。ナオスケは一日の内にあわせて十八時間以上も寝ているので筆者の苦労が忍ばれます。 こうして丹念に丹念に筆者が調べた成果を描いた絵がまた楽しいのです。挿絵の平出衛は他にもネコちゃんのさし絵を書いているようなので本気でネコ好きなのでしょう・・・・だと思います。 毛づくろいをしている様子、物陰から辺りをうかがっている様子、警戒しながらゴミ箱を漁る様子、ひとつひとつの動作がとてもリアルです。 また、マンガのようにコマを割ってノビノビとした描き方自体がネコちゃんのもつ自由で飄々とした雰囲気を出すことに一役かっています。 只、楽しいだけではなくネコちゃんの生態も分かりやすく丁寧に書かれていてとてもタメなるこの絵本は、ネコ好きの方はモチロンですが、ネコ嫌いの方にこそ読んで頂きたい絵本です。ノラネコの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)
伊沢 雅子 平出 衛
福音館書店 1994-04-15
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2008.06.10
ブログ真夜中の更新―「まっくろネリノ」
深夜2時。男は、書斎で一人くつろいでいた。 グラスに浮かべた氷を軽く揺らし、ウィスキーを口に流し込む。喉から胃にかけて熱さがしみ渡っていくのに呼応するかのようにBGMのピアノトリオの演奏も熱を帯びてゆく。その熱にほだされるように男は、腰掛けていたチェアから立ち上がり本棚の前へと移動した。一冊、一冊、ゆっくりと本の背表紙に這わせていた指が止まり、一冊の本を抜き出した。 「やっぱり、真夜中の酒の相棒は、コイツが一番だよ。」と満足そうに呟く男の手には、絵本「まっくろネリノ」が。 あらすじ まっくろネリノは、その名のとおり真っ黒な鳥です。カラフルな毛色をしているネリノのにいさん達は、黒くて地味なネリノをいつも仲間外れにしています。でもある日、にいさん達は、素敵な色をしているので捕まってしまいました。にいさんたちを気の毒に思ったネリノは、救出へと向かいます・・・・ 「男前に絵本を紹介」にチャレンジしてみましたが失敗でした。(第一、書斎やらウィスキーやらは、フィクションですし。) 失敗はとりあえず置いといて、「まっくろネリノ」は素敵な絵本です。 全てを塗りつぶす黒では無く、全てを優しく包み込む黒を基調としてパステルで描かれた色づかいは、深夜のひっそりとした静かな空気にピッタリと合います。 真夜中、いつも点けているテレビを消して「まっくろネリノ」をゆっくりと眺めて過ごすのもたまには悪くないものですよ。まっくろネリノ (世界の絵本) ヘルガ=ガルラー やがわ すみこ 偕成社 1973-07by G-Tools